さっそくどうぞ
父の隣で、ジュンのフォークはほとんど動かなかった。
静かなテーブル。
ハナは無理に笑ってみせた。
ハナ「ここ、すごく美味しいよね、お母さん。でしょ?」
ユニ「うん」
食の進まないジュンの様子に戸惑い、ユニは気まずくイナに微笑んだ。
ユニ「申し訳ないわ。(ジュンに)すごく驚いたみたい」
ジュン「・・・。」
ユニ「お父さんと二人で話すんだと思って来たんでしょう?」
ジュン「・・・。」
イナ「(ジュンに)私が軽率だったな。驚いたか?」
ユニ「驚いて当然だわ」
ハナ「私も全然知らずに来て…驚いたんです。(ジュンに)そうですよね?」
ジュンは俯いたまま、カチャンとフォークを置いた。
ユニ「本当にイナさんとそっくりですね」
イナ「そうですか?」
イナは一点を睨んだまま頑なに動かない息子の横顔を見つめた。
イナ「こうやって席を用意したのは、二人にぜひ話したいことがあったからなんだ」
ジュン「・・・。」
イナ「ハナはもう知っているだろうが…」
ハナ「…えぇ。分かってます」
イナ「それでも正式には言っていないからね。(ジュンに)本当は先にお前に会ってから、あらためてこういう席を用意するつもりだったんだが、ちょうど二人が近くまで来ていたから呼んだんだ。分かってくれ」
ジュン「・・・。」
イナ「ジュン、ハナ、私たちは結婚することにした」
目を閉じたジュンの眉間に深く皺が刻まれた。
イナ「こうやって皆が集まった場で話すことにも意味があるだろう。もうすぐ私たちは家族になるんだから」
ハナ「家族…」
ジュン「家族?」
イナ「?」
ジュン「父さん」
ジュンが言葉を繋ぐ前に、ハナがそれを遮った。
ハナ「家族、素敵ですね。家族になれれば楽しそう。私、ずっと一人で育って寂しかったから」
ジュン「!」
ジュンは彼女の言葉に驚いた。
自分は何一つ心の整理ができずにいるのに、目の前の彼女は父に話を合わせて微笑む余裕さえあるのだ。
「家族になれれば楽しそう」…彼女自身から聞かされるその言葉は、他の誰のそれよりも彼に重くのしかかった。
ハナ「(ジュンに)一人…なんですよね?」
ジュン「・・・。」
ハナ「良かったわ。…そうでしょう?」
ハナの目がすがるように彼の表情を探った。
ジュン「・・・。」
ハナ「おめでとうございます。お二人が上手くいって嬉しいです。結婚式、とっても楽しみだわ」
そこへ電話がなり、ユニが席を外した。
重苦しい空気に耐えられず、ハナは笑ってどうでもいいことをもう一度イナに話しかけた。
ハナ「ここ、すごく美味しいですね」
ジュン「…ちっとも食べてないだろ」
呟くようにジュンが口を開く。
ハナ「!」
イナ「ジュン!」
ハナ「そんなことないです。私、さっきからずっと食べてたのに…見てなかったんですね」
イナ「気詰まりだろうとは思うが…」
ジュン「えぇ。気詰まりですよ。僕だってもうこの結婚に反対はしません。どうぞなさってください」
イナ「・・・。」
ジュン「そう言ってほしかったんでしょう?僕はもう干渉しません。(ハナに)みんなで家族になるのも面白そうですね」
ハナ「・・・。」
ジュン「今度会うときはそうしましょう」
ハナ「・・・。」
ジュンは何も言えないハナを残し、一人席を立った。
+-+-+-+
ジュンは戻ってきたユニと入り口で出くわした。
ジュン「・・・。」
ユニ「・・・。」
黙って通りすぎようとしたジュンを、ユニが呼び止めた。
ユニ「私たちがいてすごく気まずい思いをしたでしょう?私たちは帰るから、もう一度お父さんと話をしてくれないかしら」
ジュン「・・・。」
ユニ「お父さん…少し不器用でしょう?それで上手く表現できないんだと思うんです」
ジュン「・・・。」
ユニ「もっと言いたかったことがあるはずだわ」
ジュン「僕は全部言いましたから」
行こうとしたジュンをもう一度ユニが呼び止めた。
うんざりした表情を隠しもしないジュンに、ユニが注意深く口を開く。
ユニ「ごめんなさい」
ジュン「・・・。」
ユニ「これまでいろいろ辛い思いをさせて…ごめんなさい」
ジュン「一つだけ、聞いてみたいと思ってました」
ユニ「?」
ジュン「お二人にとって、愛ってそんなに偉大なものなんですか?」
ユニ「・・・。」
ジュン「別れてたとしても、簡単に忘れて元気に生きていくことだって出来たんじゃないですか?」
ユニ「それは…きっと私たちが愚かだから」
ジュン「・・・。」
ユニ「心に抱いていれば、時が流れるにつれて切なくなっていくものだって…知らずにいたんです」
ユニの背後にそっとハナが現れ、話している二人を見つめた。
ジュンは彼女をチラリと見て、ユニに視線を戻した。
ジュン「僕たちがどんな思いをしたか、きっとお分かりにはならないでしょうね」
僕たち…それが正確には誰を指すのか、今のユニには知る由もない。
ジュンはそのまま店を後にした。
+-+-+-+
外へ出たところでジュンは思わず立ち止まった。
ジュン「知らない同士になろうとは言ったけど、家族になろうって?」
彼の後ろにハナが続いて出てきた。
その背中に、ハナはそっと話し掛ける。
ハナ「結婚、反対しないでくれてありがとう」
彼は振り返り、しばらく彼女を見つめた。
ジュン「お前の願ってたことだろ。お母さんの幸せ」
ハナ「やっと叶ったの。そうでしょう?」
ジュン「それで?お前は幸せなのか」
ハナ「…えぇ。幸せです。私は幸せ」
ジュン「良かったな。とにかく俺はお前と家族になるつもりはない。二人が結婚しようがしまいが、今後お前と何度も顔を合わせたくはないから、お前もこういう状況は避けてくれ」
ハナ「・・・。」
ジュンは彼女に背を向け、車の前でもう一度振り返った。
ジュン「飯、ちゃんと食え。ずいぶん痩せたぞ」
#徹底して冷たくしておいて、最後の最後で我慢できずにやっぱり優しい言葉を掛けちゃうジュン。このクセはやめられないらしい。
彼の車がハナの目の前で走り去った。
+-+-+-+
レストランに残ったイナとユニ。
二人の隣の席には、ほとんど手をつけていない料理がその気まずい空気を物語っていた。
そこへ戻ってきて席についたハナに、イナが小さな溜息をつく。
ハナはイナに笑いかけた。
ハナ「私は大丈夫です。(ユニに)心配しないで」
ハナは冷めた料理にフォークを突き刺した。
ハナ「ホントに美味しいわ。召し上がってください。(ユニに)お母さんも」
ユニ「どうしたの?全然食べないから心配したのよ」
+-+-+-+
ソノはハナの去った後のガーデンに今日もせっせと水を遣っていた。
ソノ「(電話で)全部食べました?」
ハナ「えぇ。全部食べましたよ」
ソノ「良かった。今週も食べられなかったら僕がとっておきの料理を振る舞いに行こうと思ってたのに」
ハナ「嘘ばっか。電話ばかりで一度も会いに来ないくせに」
ソノ「僕だけ会ってたらズルイと思って」
ハナ「え?」
ソノ「あはっ、何でもないんです」
ハナ「・・・。私、ソ・ジュンさんに会ったんです」
ソノ「・・・。」
ハナ「ご飯ちゃんと食べろって。食べてる間、一度もまともに見てくれなかったくせに、痩せたとか何とか言うもんだから、腹いせに全部食べてやったんです」
ソノ「やっぱりジュンのなせる技だったんですね…」
+-+-+-+
ぼんやりとホワイトガーデンに入って来たジュンは、以前と変わらない柔らかな日差しに顔を上げた。
鳥のさえずりが心地良い。
彼は声を掛けたソノにも気づかず、いつものガーデンテーブルの椅子に腰を下ろした。
ひどく疲れていた。
ソノ「何か…あったのか?」
ジュン「今日、とうとう4人で会った。父さんとハナと…それにハナの母さん」
ソノ「・・・。」
ジュン「そっくりだったな。うちの母さんとは…全く違ってた」
ソノ「・・・。」
ジュン「ソノ…。何で簡単なことだと思ったんだろう。愛なんて大したことないって…何でカッコつけたりしたんだろうな」
ポツリポツリと溜息のように言葉を吐き出すジュン。
ソノは黙ったまま、彼の話を聴き続けた。
ジュン「もうすぐ結婚するらしい」
ソノ「!」
ジュン「ふっ…。俺に向かって家族になろうってさ」
ソノ「ハナさんが?」
ジュン「いくら母さんが大騒ぎして、いくら俺がイヤだって言っても、二人が結婚すれば俺たち兄妹になるだろ」
ソノ「・・・。」
ジュン「ときどき近況も聞いて、機会があれば会って…。そのうち結婚するって話も聞いて…そうやって生きていくんだろうな。そうやって…」
ソノ「ジュン」
ジュン「…30年か」
ソノ「・・・。」
ジュン「30年以上も抱いてきた思いなんて想像もつかないな。怖いよ…」
#ジュンにはものすごく美しく光が当たっているのに、ソノはひたすら眩しそうで可哀想だ…。キャプる気にもならん(爆
+-+-+-+
ヘジョンは精力的にリゾート内を見て回っていた。
視察を終えたヘジョンに、代表理事であるテソンが応対する。
テソン「場所はお気に召しましたか?」
ヘジョン「えぇ。とても気に入りましたわ。自ら推薦してくださったとか。ありがとうございます」
テソン「我々も今度のランチングショーには大いに期待しているんです」
ヘジョン「ありがとうございます。あの、ところで…この間、小さな誤解があったようですね」
テソン「…そうですか?」
ヘジョン「話の流れでチラッと口にしたことなのに、リゾート主の方が大げさに対応してしまったようです。解雇だなんてとんでもない」
テソン「えぇ。無事解決しました。実はキム・ユニさんは僕にとって個人的にとても大事な方なので」
ヘジョン「?」
テソン「僕が知っていたら最初からこんなことにはならなかったんです」
ヘジョン「個人的に大事な方と言うと?」
テソン「好きな女性の母親です」
ヘジョン「!」
テソン「それでお聞きするんですが、失礼でなければキム先生とのご関係を教えていただけますか?」
ヘジョン「同窓生なんです。それに、私の前夫と結婚する関係でもあって」
テソン「!」
ヘジョン「その部分で誤解が生じたようですね」
テソン「前夫と…先生が?」
#これでテソンにも人間関係が一気に分かったのはいい。けど、頼むからヘジョンと手を組むような安い展開にはならないでね。先輩(懇願
+-+-+-+
ハナは暗くなったリゾート内を自宅へと歩いていた。
足取りは弱々しく、まるで魂が抜けたようだ。
「ハナ!」
彼女を待っていたテソンが元気に声を掛けた。
+-+-+-+
夜のリゾートは、水の流れる音だけがざわざわと響く。
二人は川に掛かる橋の上にやって来た。
緑色の小さな光が、水の上に無数に浮かんでいた。
蛍だ。
ハナ「ホントだね」
テソン「暑くなってきたから早めに出てきたみたいだ」
ハナ「わぁ、綺麗だな」
テソン「あいつらが言ってる」
ハナ「ん?」
テソン「”ハナ、元気出せ”」
ハナ「・・・。」
テソン「(笑って)俺が毎日辛い辛いって言うたびにお前が言ってたの真似してんだろ!(手でガッツポーズを作り)”先輩、元気出して!” 」
ハナ「(笑)」
テソン「ははは!」
ハナ「・・・。」
テソン「元気出せよ」」
ハナ「やっと先輩らしくなったね。この頃スーツばっかりで怖かったのに」
テソンの瞳に、俄に真摯な光が宿った。
テソン「ソ・ジュンさんのお父さんなんだってな」
ハナ「!」
テソン「先生が今つき合っていらっしゃる初恋相手だよ」
ハナ「・・・。」
テソン「それでソ・ジュンさんと別れたんだな」
ハナ「・・・。」
テソン「先生の結婚、それでもやっぱり嬉しいか?」
ハナ「…うん。もちろん嬉しいよ」
笑顔を見せる彼女を、テソンは切ない眼差しで見つめた。
そして、もう一度優しく呼びかける。
テソン「ハナ…。辛ければいつだって俺に寄りかかれよ。俺はあしながおじさんだろ?」
+-+-+-+
ジュンが自宅に戻ると、ダイニングにいたミホが出迎えた。
ジュン「何だお前?」
エプロン姿のミホに驚くジュン。
そこへキッチンからヘジョンが出てきた。
ミホが材料をたっぷり買って来て、頼まれたヘジョンがラザニアを作ってやっているところだったのだ。
ヘジョン「簡単に出来るものを、どうして私を煩わせるのかしらね。そうだ、あなたも好きよね?」
エプロン姿で調理の手を動かす明るい母に、ジュンの瞳が和らぐ。
ジュン「母さんのそんな姿、久しぶりですね」
ヘジョン「人を悪い母親にする達人なんだから!ふふ、早く着替えてらっしゃい」
+-+-+-+
ジュンが下りてくると、テーブルには食事の準備が整っていた。
皿の数に首をかしげるジュン。
ジュン「何で二人分なんだ?」
ヘジョン「二人で食べなさい。お母さんは食べたのよ。(ミホに)それじゃ、ゆっくり遊んで行きなさいね」
ミホ「おばさん、ありがとうございます」
ジュン「何がありがとうだよ」
ミホに続き、彼も正面の席についた。
ジュン「早く食って帰れよ」
ミホ「あたしとデートしてよ、オッパ」
ジュン「え?」
ミホ「あたしね、今度おばさんの新作発表会でモデルやることになったの」
ジュン「で?」
ミホ「忙しいのに特別に時間を作ってやってあげるのよ。オッパのために」
ジュン「だからって何で俺に?母さんのことだろ。母さんをデートに誘え」
ミホ「・・・。あたし、おばさんに全部言っちゃうから」
ジュン「お前!」
ミホ「だからー、あたしと10回デートしてくれたら秘密守ってあげる」
#どこかにジュンの秘密落ちてないか?みんなで探すんだ。
怒ってジュンがフォークを置く音が響いた。
ミホ「それじゃ8回?」
ジュン「・・・。」
ミホ「5回」
ジュン「・・・。」
ミホ「(ガックリ)3回」
意気消沈したミホに思わずジュンが笑った。
ミホ「ふふっ、3回ね」
ジュン「1回だ」
ミホ「そうやって減らすの反則だよ。ソ・ジュンのスタイルじゃないでしょ」
ジュン「じゃあやめとけよ」
ミホ「分かったってば!2回」
ジュンは気にもとめない様子で再び食事に戻った。
ミホ「今度のランチングショーはオッパが撮るんじゃないの?」
ジュン「え?」
ミホ「演出までいつもオッパが全部やってたでしょ」
ジュン「何も聞いてないけど。どこでやるって?」
ミホ「昆池岩リゾート」
ジュン「?!」
ミホ「知らなかった?」
+-+-+-+
家に資料を持ち帰り、自室で仕事を続けていたヘジョンの元へジュンが乗り込んで来た。
ヘジョン「どうしたの?」
ジュン「ランチングショーでどうなさるおつもりですか?」
ヘジョン「何もしないわ。心配しないで」
ジュン「誰と会うおつもりですか?母さんのことが僕に分からないとでも思ってるんですか?」
ヘジョン「誰にも会わないわ」
ジュン「それなら僕も行きます」
ヘジョン「!」
ジュン「いつものように僕も行きますよ。僕が撮りますから」
ヘジョン「あなたのお父さんの結婚、本当に黙って見てるつもり?」
またその話か…。
ジュンが背を向けると、ヘジョンが言葉を続けた。
ヘジョン「ユニにしろ娘にしろ…」
ジュン「!」
ヘジョン「えらくご立派なものね。ん?」
ジュン「・・・。」
ヘジョン「ユニの娘はあそこの代表理事とつき合ってるらしいけど」
ジュン「・・・。」
ヘジョン「あっさり味方に回ったわ」
ジュン「・・・。」
ヘジョン「母娘でよくもまぁそっくりなことが出来るものね」
彼女の前で乱暴に扉が閉まった。
+-+-+-+
ジュンの車がリゾートに到着した。
助手「ここ、ハナさんの家があるリゾートじゃないですか?」
ジュン「時間がないから、すぐにリハの準備しろよ」
ジュンが車の扉を開ける。
助手「ハナさんに会えるといいのにな」
ジュン「!」
車を下りたジュンが、運転席を覗きこむ。
ジュン「連絡したりすんなよ。したら半殺しだ」
助手「えぇ」
ぶっきらぼうにドアを閉め、ジュンが背を向けた。
助手「全く…。会えたら内心嬉しいくせに。僕が知らないとでも思ってんのか?」
+-+-+-+
植物園で作業をしていたハナは急に入った作業依頼を受け、リゾート内のある施設へ駆けつけた。
大きな花瓶を全部並べてくれと指示があったのだ。
ハナ「ところで、何のイベントですか?」
+-+-+-+
ジュンは職員の案内でリゾート内を視察していた。
熱心に説明を受けながら、ランチングショーの構想を立てる。
+-+-+-+
館内のロビーで花を整えていたハナは、ふと向こうに見える人々に視線を向けた。
その中心にジュンの姿を見つける。
ハナ「!」
そこへテソンを伴ったヘジョンが現れ、声を掛けた。
ヘジョン「まだ紹介してなかったわね。こちらが昆池岩リゾートの代表理事で…」
ハナの目の前で向き合うジュンとテソン。真ん中にいる女性の存在が大きく映った。
ハナ「お母さんね…」
+-+-+-+
ジュン「久しぶりですね」
テソン「よろしくお願いします」
ヘジョン「知り合いだったの?!」
二人はじっとお互いの目を見たまま、視線を逸らさない。
ヘジョン「(ジュンに)それなら早く言いなさいよ」
+-+-+-+
ふいにヘジョンとテソンが自分のいる建物に向かって歩き出した。
ハナは慌てて花の影に身を隠す。
中へ入って来た二人は、彼女のすぐそばを慌ただしく通り過ぎていった。
+-+-+-+
正装し、急いでホワイトガーデンの門をくぐろうとしたソノは、ふと門から続くフェンスに目を留め、立ち止まった。
ソノ「何か変わってる気がするんだけど…」
白いフェンスにはバラのつるが這わせてあり、そのつるをフェンスに紐で結びつけてあった。
その紐は彼の記憶になかったものだ。
ソノ「これ、誰が結んだんだろ。ハナさんが来たのかな?」
時計を見て「遅れる!」と慌てて出て行ったソノの後ろで、庭の隅にある小屋の扉が開いた。
見るからに寝起きの様子で出てきたのはチョンソルだ。
#寝起きの体操も田舎っぽい(ごめんよ
チョンソル「はぁ。やりかけだったの、やっちゃうか」
彼は庭へと歩き出した。
フェンスに沿って伸びるバラのつるを、一つ一つ、丹念に紐で結んでいくチョンソル。
店員「何やってんですか?!」
チョンソル「何って、バラを結んでるんだけど」
店員「何でそんなことを?他人の庭でしょ」
チョンソル「他人って何だよ。友だちの庭だろ。自分らさえいい暮らしできりゃいいのか?こいつらだって生きてるんだぞ。日光がよく当たるように、こうやって結んでやらなきゃダメなんだからな」
ひととおり作業を終え、チョンソルは振り返った。
チョンソル「ソノとジュンはいますかね?中にいるのか?」
店員「(阻止)今二人ともお出掛けですよ」
チョンソル「また?!何で会うのにこんな苦労すんだよ?」
+-+-+-+
その頃、人気のない植物園の一角で、イナとユニは二人で土を触っていた。
二人で土を耕し、苗を植えていく。
ゆったりと時間が流れていた。
ユニ「(苗を渡し)そこに植えてください?」
イナ「どこ?ここかい?」
ユニ「えぇ」
イナ「いい気分だな。久しぶりにこうして土に触れて」
ユニ「こうやって暮らすのも幸せでしょう?この仕事を始めたの…実は夫がキッカケだったんです」
イナ「そうだったんですね」
苗を植え終わった二人は、自然の中の小道を歩いていた。
菜の花が咲き乱れ、辺りは鮮やかな黄色い色彩で染まっている。
イナ「僕も土は好きですよ。陽光も好きだし、君も好きだ」
ユニ「…私もこうやって一緒にいられて嬉しいわ」
イナは座ったベンチから立ち上がり、景色を見渡した。
イナ「こんな場所で結婚式を挙げるのはどうかな。そろそろ結婚式の日時や場所も決めなきゃならないけど」
ユニは頷き、俯いた。
ユニ「ハナと相談してみます。それに、あなたも…相談してみてくださいね」
イナ「ジュンと。そうですね?」
ユニ「・・・。」
イナ「そうしましょう」
+-+-+-+
ランチングショーのリハーサルがおこなわれていた。
ステージの脇でヘジョンとジュンがその様子を見守っている。
花を配置するよう指示を受けたものの、ハナは彼らに見つかるのが怖くて、植木鉢を抱えたまま建物の陰で躊躇っていた。
ちっとも植木を運ばず、陰から自分を呼ぶハナに、「この忙しいのに」と愚痴をこぼすスタッフ。
向こうで植物園のスタッフ同士が揉めている様子に、ジュンの視線がそちらへ向かった。
ジュン「?」
スタッフに花を渡したハナは、こちらを見ているジュンに気づき、慌てて帽子を深く被り直し、背を向けた。
+-+-+-+
再び館内に戻り、花で一杯の鉢を運び出そうとしたハナは、ちょうどそこへ入って来た人とぶつかった。
ハナ「!」
それはヘジョンだった。
ヘジョン「何なの?ホントに!気をつけてくれなきゃ」
ハナ「申し訳ありません!」
ハナがぶつかった相手に気づき、思わず顔を伏せる。
そこへ後ろからやって来たジュンも二人に気づき、立ち止まった。
ヘジョン「やっとのことでお招きしたお客様も大勢いらっしゃるのに、失礼があったらどうするの?気をつけてくださいね」
ヘジョンが立ち去ると、ジュンが入って来てそっと声を掛けた。
ジュン「何でここにいるんだ?」
ハナ「いえ、私は…花を」
ジュンはハナの手首を掴み、急いで歩き出した。
館内を奥へと進んでいたヘジョンは、ふと足を止め、入り口を振り返った。
そこにはハナが運ぼうとしていた花だけが残され、もう彼女の姿はない。
ヘジョン「?」
「おばさん!」ちょうどそのとき、ミホがやって来てヘジョンを呼んだ。
ソノも一緒だ。
ヘジョン「どうしたの?ソノがこんなところに現れるなんて」
ソノ「この近くにいる友だちにも会いたくて」
ヘジョン「この近くに友だちが住んでるの?」
ミホ「誰?」
ソノ「あ…、いるんだ。(ヘジョンに)おめでとうございます」
ヘジョン「そんな、いつもやってることよ。こうやってみるとミホは可愛いわね」
ミホ「ふふっ、ありがとうございます」
ソノ「ところで、ジュンは?」
+-+-+-+
ジュンはハナの手を引き、人のいない会議室へ飛び込んだ。
ハナ「あの方が…お母さんなのね」
ジュン「何でここにいるんだ?」
ハナ「仕事してたんです。お母さんの会社だって知らなくて」
ジュン「俺の母さんに関わってロクなことはない。行けよ」
ハナ「・・・。」
ジュン「それから、お前の母さんにも伝えろ。来ちゃいけないって。この複雑な状況にお前まで関わる必要はない」
話し終わるとジュンは早々に部屋を後にした。
廊下を足早に歩いて行くジュン。
続いて出てきたハナがその背中に声を掛けた。
ハナ「ありがとう」
ジュン「・・・。」
ハナ「心配してくれて」
ジュン「礼なんて言うな。お前の心配したわけじゃない」
ハナ「・・・。」
ジュン「俺だって自分の母親を心配しただけだ」
ハナ「どっちにしても…私とお母さんを心配してくれたことになるでしょう?それにお礼が言いたかったんです」
ジュン「・・・。うちの母さんをどん底まで落として、俺とお前が家族になって…。それでも構わないって言うんだな」
ハナ「・・・。」
ジュン「どうせお前にとって一番大事なのは、自分の母さんの幸せだから」
ハナは力なく微笑んだ。
ジュン「あぁ。気分良さそうでよかった。けど、俺まで幸せなわけじゃないから、俺の前で笑ったりすんな」
ハナ「・・・。」
そのとき、ジュンの背後に向こうから歩いてくるヘジョンの姿が見えた。
ヘジョン「ジュン?」
ジュン「!」
慌てて顔を逸らすハナだが、この至近距離では隠れようがなかった。
ジュンの後ろにいるハナの元へ、ゆっくりとヘジョンが近づいていく。
ヘジョン「あなた、誰かしら?」
ハナ「・・・。」
ジュン「誰でもありませんよ」
ハナ「・・・。」
ヘジョンはもう一度ハナの顔を覗き込み、愕然とした。
ヘジョン「あなた、ユニの娘でしょ!」
母に会わせたくなくて人目を避けたのに、彼の意に反して最悪の状況に陥ってしまった。
ジュンが絶望に目を閉じる。
ハナ「こんにちは」
ハナは何とか笑顔を見せ、頭を下げた。
ヘジョン「(ジュンに)この子をどうして知ってるのよ?どうして一緒にいたの?ねぇ?」
ジュン「・・・。」
ヘジョン「あなたたちまさか…私に隠れて二人で会ってたの?」
ジュン「・・・。」
ヘジョン「お父さんが紹介したの?私をのけ者にしてコッソリ会ってたの?!」
ジュン「そんなんじゃありません」
ヘジョン「(ハナに)大胆にもここをどこだと!!!」
ジュン「やめてください。この子は関係ないでしょう」
ヘジョン「どうして関係ないのよ!こんな子を庇うの?兄妹でおままごとでもしてるわけ?」
口を挟もうにも、ヘジョンの興奮は止まらなかった。
ヘジョン「誰がこの子をここに入れたのよ!すぐに追い出しなさい!!!」
秘書の一人が指示を受けてハナに近づこうとした時、ハナが口を開いた。
ハナ「すみませんが、私、ここに仕事をしに来ているんです」
ヘジョン「!」
ハナ「仕事が終わったら出て行きますから」
ヘジョン「何ですって?!」
ジュン「行くぞ」
ジュンはハナの手を取り、母親の叫びも聞かずに歩き出した。
追いかけようとするヘジョンをソノが止める。
ソノ「落ち着いてください」
ミホ「大丈夫ですよ。ただの知り合いでしょうから」
ヘジョン「・・・。」
ミホ「お客様もたくさん来てるんだし、早く行きましょ」
+-+-+-+
ジュンはハナを連れ、外へ出てきた。
ハナ「私、大丈夫です」
ジュン「何が大丈夫なんだよ!!!」
ハナ「大丈夫ですから。お怒りになるのだって無理ないわ。理解できます」
ジュン「・・・。」
ハナ「だから、気にしないで」
ジュン「・・・。黙って行け」
ハナ「・・・。」
ジュン「行けっつってんだ」
ハナ「・・・。」
ジュン「全く…いつまでお前にこんなザマ見せなきゃならないんだよ!!!」
ハナ「・・・。」
まっすぐ、穏やかに自分を見つめるハナ。
ジュンは彼女の前で狼狽えたように視線を逸らした。
彼が腹を立てているのは決して彼女に対してではない。
深い深い溜息が漏れた。
ジュン「ごめん。俺も、母さんも…ごめんな」
ハナ「・・・。」
ジュン「だから、もう行ってくれ」
彼が去った後、彼女も小さな溜息を漏らした。
+-+-+-+
ここで一旦区切ります。
yujinaさん、お疲れ様でした!!
返信削除ジュンは、ユニにも自分の気持ちを吐露していたんですね…。
ハナに対しては、どこまでも優しくて…切ないです。
毎回、いい働きをしてくれる助手君は、今回も心憎い台詞を言ってくれて嬉しい~(^^)
早起きして良かった!!
早速、うな友にもお知らせします♪
はじめまして。わーい、一番かな?
返信削除ラブレイン、とてもいいドラマだと思います。日本ではすごく人気が出るはずだと信じています。
私はどうしても韓国語の響きが好きになれず、そのせいかどうかは分りませんが、韓流ドラマには内容的にほとんどハマれず、共感出来ず、いままで楽しめませんでした。
でも、ある時、たまたまグンソクさんの話し方(声かな?)に衝撃というか、驚きました。韓国語らしくない(これって失礼?)響きにノックアウト。なんてソフトな喋り方。どなり声さえ、心地よい(笑い)
それで、グンソクさんが出ているドラマだけ、字幕で観るようになりました。彼の声はとても耳に心地よいですね。歌声も大好きです。不純な動機で見始めた韓国ドラマですが、
このラブレインは大好きです。韓国語はほとんどわからないので、このブログの素敵な翻訳が頼りであり、心の支えです。素敵な日本語で訳されていて、本当に尊敬します。頑張ってください。これからも楽しみにしています。
ゆじなさん、いつもいつもありがとうございます♪
返信削除読んでいるだけで場面が浮かぶ、素敵な翻訳に朝から幸せな気分になりました(*´▽`*)
イナとユニは幸せそうで、ジュンとハナはどこまでもせつない(>_<)
母親の幸せを願うからこそ、二人の気持ちも辛くなるのがもう。。。
この先どんな展開になればみんな幸せになれるんだろう、と、ハラハラドキドキしてしまいます(笑)
ゆじなさんの体調が気掛かりですが、続きも楽しみに待ってます♪
ユジナさん、おはようございます( ´ ▽ ` )ノ
返信削除別れてからはじめて他人の振りしてあう場面でしたね...はあ~苦しいですね~
ジュンがとことん冷たく接しても、やっぱりまだ愛があるから...ポロっと優しくしてしまう(>_<)
我慢すればするほど、想いは募るものですよね...
続きも楽しみに待っています~(^_^)
おはようございます。朝の訪問が日課になっております。
返信削除言葉は激しくとも、その裏側にあるせつなさや(この言葉よく使いますね。私)
やさしさが感じられるジュンが愛おしくて・・・
不器用ながら一生懸命ハナを思うジュン。受け止めてあげてと願わずにはおれません。
ユジナさんの翻訳を読んでいると、本来こういう思いだったんだという
微妙なニュアンスが読み取れて嬉しいです。
セリフわましというのでしょうか?話し言葉が自然で、俳優さんたちが生き生きと感じられます。
もちろんセリフ以外の文も大好きですよ。
私の冥土の土産のためにも、頑張ってくださいね。
おはようございます!
返信削除さっそく読ませて頂きました
いつもありがとうございますo(*^▽^*)o
ジュンやハナの想い、せつなさが伝わります
ソノも応援したいかも...
チョンソルもいい味かな?
展開にドキドキです!
お忙しいでしょうが、楽しみにしています!
おはようございます^^ お仕事たいへんなようですね。。
返信削除そんななかでのUPコマスミダ^^
「飯、ちゃんと食え。ずいぶん痩せたぞ」 "so mutch i love you" と言ってるんだなー!!!!!
会いに行ったり、はねのけたり、めんどうくせー!!!!! と思いつつ、ユン・ソクホ監督の世界にハ
マッテいます!!!!!
yujina♪さんの訳文読みながら行間を感じ、
自分でここまで理解できないことにもどかしい思いです!!!!!
もっと自習しなきゃ!!!!! gonchanヒムネ!!!!!
私も2年前までは、韓国語の破裂音に馴染めない一人でしたが、
たまたま見たドラマのなかの表現の仕方や可愛いひびきの言葉にひかれました!!!!!
それ以降韓国のTV番組をみながら独学中!!!!!
ちょっと壁を感じる今日この頃!!!!!
グンソクさんの ~ヨと言う時の ”ヨ”の鼻をぬける音が上品で素敵ですね!!!!!
あ~今日は家にいるので長話になってしまいました!!!!!
後半を楽しみにまちながら、復習しよっと!!!!! アンニョン^^/
毎度毎度ありがとうございますm(__)m
返信削除いつものことながら、これでやっとドラマが理解でき ちゃんと観た実感が沸いてきます。
ジュンの愛を痛いほど感じますね。
と、同時に グンちゃんの演技に引き込まれ
惚れ直してしまいます(笑)
ユナにもうっとり!本当にかわいいです。
ドラマは あと4話となりましたね。
みんなが納得できるラストだといいのですが... (^-^;
いつも ありがとうございます。
返信削除もう、辛くて辛くて
12話以降は、繰り返し観ることが出来ません (T-T)
でも
yujinaさんの文章は、何度も読んでいます。
お疲れさまです。
返信削除そーか、ジュンはなかなかどSな発言をハナにしていたんですね。
この回のジュンも、せつなげで綺麗でした(* ̄∇ ̄*)
yujinaさんへ♪
返信削除ありがとうございます♪
ジュンのそばにソノがいて‥よかったです。
ソノには、苦しい自分の気持ち吐き出せるのですね‥
ソノは、黙って聞いてくれる‥
(ソノの診療所に行きたいわ~)
♪どこかに落ちてるジュンの秘密!
探しに行きます~(ノ^^)ノ
デート券!?と交換~?( ´艸`)
ありがとうございました!
★yujinaさんへ★
返信削除いつもありがとうございます。
毎回、楽しみにしてます。
2回、映像をみて こちらでyujinaさんの翻訳を読んで また、翻訳を見ながら映像を観てと…、
どっぷりはまってます。
単語をいくらか 聞き分けられる程度なので、本当にこの翻訳は、うれしいです。
続きを、楽しみにしてます。
無理しないで、yujinaさんが楽しみながら続けて下さいね。
いつもありがとうございます。
返信削除こんなに優しい言葉をユニに掛けていたんですね、ジュンの苦しい胸の内が痛いほど伝わってきます。翻訳の魔力ですね。ぐんちゃんの声も素敵です。
yujinaさん、いつもありがとうございます。
返信削除翻訳の台詞を読むと、不思議とグンちゃんの声となって
心の中で聞こえてきます。
それ程、yujinaさんの表現が素晴らしいからでしょうネ!
翻訳のおかげで、新しい役名(チョンソル)も覚えられました。
これから、チョンソルもいい味出してくれるんでしょうね?
yujinaさんの翻訳は、Love Rainにはなくてはならないアイテムになっています。
どうか、お体を壊さないように気をつけて
最終回まで頑張って翻訳してくださいね!
14話、後半も楽しみにしています!!!
いつも丁寧な訳ありがとうございます。
返信削除読んでいるとジュンやハナの映像がまるで今目にしているように再現されます。
ありがとうございます(^.^)
返信削除ジュンの苦悩が感じられます(;>_<;)
初めまして(^o^)
返信削除いつもこのブログが更新される
の楽しみにしています(*^^*)
私は少女時代が大好きです☆
ユナがとても好きです☆
あとラブレインを見てから
グンちゃんも好きになり
本当にラブレインという
ドラマを愛してます。
これからも
更新よろしくお願いします◎
Yujina様、いつも楽しく拝読しています。
返信削除シリアスな会話が多いのでやっと理解できました。
今回はヘジョンのエプロン姿を見たジュンの笑顔が忘れられません。
やっぱりお母さんは好きなんだよね~切ない…
いつもありがとうございます。
yujinaさん、ありがとうございます(*^^*)
返信削除いつも、本当に感動し満足感100%で
翻訳を拝読させていただいております。
自分の初恋と重なるものを感じ
このラブ*ロマンスの行方を
悲しみと幸せを噛み占めるように
見守っております。。。
今回の1場面でユニとジュンがすれ違いざまに
交わした会話で・・・・・
ジュン「別れたとしても、簡単に忘れて元気に生きていく事だって出来たんじゃないですか」
に対して
ユニ「それは…きっと私達が愚かだから…」
・・・・・このシーンは、Yujinaさんの翻訳を読んで
私は、感情が抑えられず…涙が溢れて止まりませんでした。
ラストまで、静かにこちらへ訪問させていただきますね。
Yujinaさんのファンより
yujinaさんこんにちは^^
返信削除なんとも悲しく重いシーンが続きますよね…
でもしんみりしたかと思うとチョンソルが出てきて「ほいっ!!」っとひと息入れてくれるのがなんとなくいいなぁ~なんて思います。
最近、アノKYなハナの着信音鳴りませんねー
やっぱり監督もKYだって思ってるのでしょうか?! (#^.^#)
私事ですが、ゆっくりじっくり読みたくって感想も入れたくって時間が出来るのを待っておりました^^
これから一気に読んで感想を入れさせていただきまーす\(^o^)/