あれから3ヶ月。
韓国へ戻った彼らは、ダイアモンドスノーの写真に導かれ、ふたたび…
さっそくどうぞ
+-+-+-+
「放してよ!痛いでしょう!」
叫ぶハナの手を無理やり引っ張り、ジュンがその小さな小屋から出てきた。
思い切り手を振りほどいたハナは痛みに思わず声を上げる。
ジュン「何だお前?何でここにいるんだよ」
ハナは答える代わりに彼を睨みつけた。
怒ったその顔をジュンが覗き込んで笑う。
ジュン「1秒だって嫌だとか言っといて、自分の足で会いに来たのか?スタジオの場所はどうやって分かったんだよ。俺のこと、ずいぶん調べたんだな。ん?」
ハナ「何言ってるんですか。笑わせるわ、全く。会いたくて来たと思ってるわけ?!」
ジュン「・・・。」
ハナは手に握りしめていたチラシを突き出す。
ハナ「何ですか、これ」
ジュン「何だよ?」
ハナ「見れば分かるでしょ」
ひったくるように受け取り、畳んだそれを広げてみた彼は、驚きに目を丸くした。
ジュン「え?!これは!!!」
「なんだろう?」と助手が首を伸ばす。
ハナ「(冷笑)知らん顔するのね。人の写真を無断で使っておいてしらばっくれる気?」
怒りでチラシをくしゃくしゃに丸めた彼は後ろを振り返った。
ジュン「おい、助手!」
助手「あ、はい!」
助手もチラシの写真に驚く。
助手「何でここに?!」
+-+-+-+
「人の写真くしゃくしゃにするなんて!」
ハナはジュンのスタジオで、皺になったチラシを一心に伸ばしていた。
ハナ「しらばっくれるわけ?私が許すと思ったら大間違いよ。」
+-+-+-+
ジュンは1Fカフェの片隅で腕組みをし、黙り込んでいた。
背後には助手が困った様子でどこかへ電話をしているのが見える。
さっきの小屋で昼寝をしていた男性、ソノが楽しそうに尋ねた。
ソノ「誰?」
ジュン「誰って?」
カフェ店員「あの女の子の写真、無断で使ったって言ってたでしょ」
ジュン「俺がやったんじゃない」
ソノ「それは分かったけどさ、あの写真、どういういきさつで撮ったんだ?」
ジュン「・・・。」
カフェ店員「そうですよね。モデルじゃないみたいだけど」
ジュン「トーゼンだろ。あれがモデルに見えるか?」
ソノ「それなのに何で撮ったんだ?」
ジュン「…何?」
ソノ「お前、もともと職業モデル以外は人物写真撮らないだろ」
ジュン「(ドギマギ)…そんなことない」
ソノ「(ニコニコ)」
そこへ緊張した面持ちで助手が戻ってくる。
ジュン「どうなってる?」
助手「広告主があの写真を気に入ったそうなんです」
ジュン「…そんなことだと思った。ダサいセンスしてるからな。で?」
助手「あの写真、こちらから渡したフィルムに混じっていたから使ったのに、いまさら言われても困るって」
ジュンは思わず立ち上がった。
ジュン「そんな話通ると思ってんのか?」
助手「実際そのとおりでしょう。自分たちで選んだ写真なのに、チラシだろうがパネルだろうが好きに使って何が問題なんだって…」
ジュン「あー全く…。けどお前、あの写真消したんじゃなかったのか?」
助手「あ…、消そうとしたんですけど、何だか不思議な感じがして」
ジュン「何が?」
助手「室長はもともと職業モデルじゃなきゃ絶対撮らないでしょう?」
ジュン「!」
助手「(ヘラヘラ)それなのに女性の写真を撮るなんて珍しいなぁって」
ジュン「!」
咄嗟に説明の言葉が出ないジュン。ソノも愉快そうに彼の動揺した表情を見つめた。
ジュン「おい、ホントに違うからな!」
ソノ「(ニコニコ)」
助手「あ~。どういういきさつかと言いますとね、えーと、室長が日本であの女の人にフラれたんですけどね、その…」
ジュンは慌てて助手の口を塞いだ。
ソノ「フラれた?誰が?」
ジュン「向こうがだよ~^^」
助手「?!」
ジュン「(ニコニコ)たいしたことじゃないんだ。日本で偶然会ったんだけど、俺が振ったんだよな。それでも好きだってこんなとこまで来ちゃってメンドクサイの何の…ふははっ♪」
「だよな」とヘラヘラ笑うジュンに、助手は呆れて声も出ない。
ジュン「あぁ、疲れた。片付けてこなきゃな」
ジュンはそそくさと彼らの前から逃げ出した。
+-+-+-+
スタジオに入ってきたジュンをハナが待ち構えていた。
ハナ「一体どうなってるんですか?」
ジュン「知らねーよ。広告主が勝手に使ったのをどうしろってんだ」
ハナ「何ですって?!」
ジュン「俺だって被害者なんだ。いくらチラシだからってこんな写真が出回って、いい気分でいられるかよ?」
ハナ「こんな写真?!」
ジュン「・・・。」
ハナ「図々しい…。誰が好き勝手に写真撮れって言いました?」
ジュン「図々しい?俺がいつお前のこと撮った?」
ハナ「何ですって?!!!」
ジュン「お前の後ろにあるダイアモンドスノーを撮ったんだ。勝手に人の写真に割り込んでぶち壊しやがって」
ハナ「・・・。」
ジュン「俺が悪いのか?お前が悪いのか?」
ハナ「・・・。」
ジュン「俺には責任ない」
ハナ「じゃあ誰の責任?許可くらいとってくれても…」
ジュン「あのさぁ。マディソン郡の橋がすごく綺麗で写真を撮ったのに、そこにいたアヒルが一緒に写ってたら?アヒルに許可とらなきゃダメか?」
ハナ「・・・。」
ジュン「空があんまり綺麗で写真を撮ったのに、そこに蝶が写り込んだら?蝶に許可とらなきゃダメか?」
ハナ「責任取って」
ジュン「ダメだ」
ハナ「全部回収してよ」
ジュン「やりたきゃ自分でやれよ」
ハナ「はぁ…ひどすぎるわ。すまなかったって…それくらい言ってくれるべきじゃない?」
ジュン「・・・。俺、それは絶対言わないって言ったよな」
ハナはいい加減悲しくなって俯いた。「誰かが見たらどうしよう」
ジュン「誰に見られたくないんだ?」
ハナ「(ジロリ)」
彼の脳裏に、札幌で彼女の腕をつかみ合った男の顔が浮かぶ。
彼はその男の顔を笑って払いのけた。
ジュン「けど可笑しいよな。俺のこと1秒も見たくないんだろ。もっと見てるけどいいのか?」
ハナ「・・・。」
ジュン「あぁ~。一度言ったことコロコロ変えるタチか?そんなにプライドないのか?」
ハナ「・・・。」
だんだん調子に乗ってきた彼は、ハナににじり寄った。
ジュン「それとも…。金でもふんだくるつもりか?」
ハナ「!!!」
それ以上耐えられず、ハナは彼の前を離れた。
+-+-+-+
Jun Studioの扉の向こうでは、助手・ソノ・カフェ店員の3人トリオがじっと中の様子を伺っていた。
たまらず中に入ろうとしたソノをカフェ店員が止める。
店員「何やってんすか」
ソノ「喧嘩してるみたいだし、止めなきゃ」
ドアに手を掛けようとした彼は、ちょうど中から飛び出してきたハナと鉢合わせになった。
目を潤ませたハナは、思わず気まずそうに目を伏せる。
#可愛いわ!可愛すぎるわ♥
ソノ「大丈夫ですか?」
ハナ「す、すみません」
彼女は逃げるように彼らの前から走り去った。
元気のないその後姿を、ソノは心配そうに見送る。
+-+-+-+
一人になったジュンは、急に静かになったスタジオの真ん中で苛立っていた。
深い溜息がひとりでに溢れる。
+-+-+-+
スタジオの外へ出てきたジュンに、ソノが声を掛けた。
ソノ「ジュン」
ジュン「?」
ソノ「大丈夫なのか?」
ジュン「何が?」
ソノ「あの女の子、泣きながら帰ったけど」
ジュン「・・・。俺には関係ない」
ジュンは背を向け、出て行った。
ソノ「泣いてたのにな…。悲しそうだったのに」
ぼんやりと呟く彼に、カフェ店員が声を上げた。
店員「ダメですよ!」
ソノ「ん?」
#か、可愛…(しつこい
店員「ダメですってば!可哀想な女の子みたらすぐ好きになっちゃうでしょ!」
ソノ「ん??」
店員「そうだ。3ヶ月前は金まで貸してフラれたでしょ」
ソノ「あはっ あはははっ」
そのとき、窓の外を通りがかった男性に気づき、「患者さんだ!」と逃げるように走りだした。
店員「先生!愛は良心で実るものじゃないですからね!」
+-+-+-+
デスクに「家庭医学科専門医 イ・ソノ」という名前が掲げられている。
時間がなくてなかなか来られないという患者に微笑むソノ。
ソノ「わざわざ時間を作るんじゃなくて、遊びに来てください。ご飯を食べに来てもいいし、お茶を飲みに来てもいい。じゃなきゃ電話でもいい。連絡くだされば一緒に飲みに行くのもいいでしょう?」
患者「えー?医者が患者と飲んでもいいんですか?」
ソノ「なぜダメなんです?飲みながら飲酒傾向もチェックすればいいじゃないですか。最近どれくらいお飲みになります?^^」
+-+-+-+
鮮やかな自然の色彩が輝き、小川の流れる音が優しく響いていた。
その風景に溶けこむように、手帳を広げて座っている若草色のセーターの女性。
遠くからその女性に誰かが声を掛けた。
男性「先生!」
女性「?」
男性「またここにいらしたんですね。樹を見てやってください」
女性「えぇ。すぐ行きますね」
彼女、キム・ユニは丁寧に手帳を閉じ、立ち上がった。
#美しい…。はい、1秒で惚れました
+-+-+-+
ハンドルを握りながら、ハナはまだ怒りに震えていた。
ハナ「行くんじゃなかった。こんなことだろうと思ったわ。ホントどうしようもない奴!自分勝手すぎるわ。自分の気に入らない写真を使われたことが一番重要なの?望みもしないのに勝手に写真を使われた人の気持ちは考えないわけ?もう!」
+-+-+-+
ジュンはチラシを黙って机に叩きつけた。
驚いた広告主が振り返り、彼を見上げる。
広告主「おぉ!見ましたか」
ジュン「見たから来たんでしょう。どうして他人の写真を勝手に…」
広告主「ワオ♪」
ジュン「?」
広告主「やっぱり我々は通じ合ってるようですな」
広告主は嬉しそうに彼の手を握った。
広告主「このモデルのことでちょうど話があったんですよ。このモデル誰ですか?」
ジュン「はい?」
広告主「このモデルに一度会ってみましょう」
ジュン「・・・。」
広告主「連絡とってください。今すぐでも構いませんから。早くっ」
ジュン「ふざけてるんですか?」
助手「無断で写真を使ったと、この方から抗議が来てるんですよ」
広告主「おぉ…」
ジュン「当然ですよ。僕でも当然抗議します。この人は一般人なんですよ。許可もなしに勝手に使ってどーすんですか!知らないうちに自分の顔が街中に出回ったら、いい気がしますか?」
意外なジュンの言葉に驚き、助手は思わず顔をほころばせた。
広告主「つまり、私がその方に謝罪すべきだと、そうおっしゃるんですか?」
ジュン「今すぐ謝罪なさってください」
彼女に会いたい広告主は「喜んで」とばかりに指をならした。
広告主「えぇ。今すぐ謝罪しましょう!」
ジュン「それに、これは全部回収してください」
広告主「それはなんとか…」
ジュン「何ですって?」
広告主「お聞きなさいよ。このモデルを初めて見た瞬間、すさまじいインスピレーションがパパパパっ!写真から伝わってきたんですから。知ってるでしょ、シンデレラ!魔法の杖を振った瞬間、シャラララ~、シンデレラがお姫様に変身する!全ての女性たちの憧れでしょう!うちのジュエリーを身に着けた瞬間、ダサくて田舎っぽい女性がシャララララ~!素敵な女性に変身するんだ!」
ジュン「・・・。」
呆れて口をポカンと開けるジュンの後ろで、うんうんとすっかり納得している助手。
広告主「いいぞ!ソ室長と私、二人でこの歴史に残る作品を作り上げましょう!早く!電話してくださいよ。ね?」
ジュン「・・・。」
+-+-+-+
「本当にやらないおつもりですか?」…運転する助手が残念そうに声を掛けた。
ジュン「やらない。俺に二言はない」
助手「それでもいい話だと思って。一緒にやろうってあのお嬢さんに一言いえば…」
ジュン「(ジロリ)」
助手「・・・。それはそうと、驚きましたよ!」
ジュン「今度は何だよ」
助手「室長があのお嬢さんの味方になって抗議するとは思わなかったんです」
ジュン「・・・。」
助手「室長が誰かの味方するのは初めて見…」
ジュン「うるさい!味方なんかするかよ!」
助手「・・・。またおジャンですかね」
ジュン「おジャン?!」
助手「また仕事がおジャンになっても、僕は室長のそばを絶対離れませんから。うちの父さんと写真館でもやりますか?」
簡単な写真を撮っていればいい街の写真館。
そんなお気楽なカメラマン生活を笑顔ですすめる助手に、ジュンの怒声が飛んだ。
ジュン「おい!!!」
+-+-+-+
ハナのトラックは山の中へと進んでいた。
自然公園の一角まで来て何かを見つけ、彼女は笑顔で車を停める。
ハナ「お母さん!お母さ~ん!」
笑顔で手を振る彼女に気づき、微笑み返す母。
それは、さっき花に囲まれて手帳を広げていた、ユニだった。
+-+-+-+
ユニが食事の準備をする自宅に、ハナがテソンを連れてやって来る。
ユニ「いらっしゃい」
「先生のお好きなケーキです」テソンが差し出した赤い箱を、彼女は笑って受け取った。
ユニ「来てくれるだけで良かったのに。ありがとう^^」
ハナ「私にお土産は?」
ハナが口をとんがらせて催促の手を伸ばした。
テソン「俺♥」
ハナ「チッ」
口ではそう言いながら、照れくさそうにそっぽを向く。
3人はさっそく揃って食卓を囲んでいた。
テソンのおかわりを入れるため、席を立った ユニの後ろで、ハナが彼に目で合図をした。
テソン「先生、ハナがソウルで一人暮らしをするのは僕もやっぱり心配なんです」
ユニ「何よ。(ハナに)テソンまで引っ張りこんだの?」
ハナ「いや~(モゴモゴ)」
テソン「あの…」
ユニ「ごめんね、テソン。それはダメ」
テソン「・・・。」
ユニ「ここからソウルまで何時間も掛かるのに、行ったり来たりするのは大変だわ」
テソン「僕が送り迎えしてやれば…」
ユニ「ダメ。植物園の仕事だってすごく忙しいのに、ダメよ」
ハナ「・・・。」
ユニ「(ハナに)ダメよ」
ハナ「お母さん!そんなに私のこと突き放したいの?私、お母さんと一緒にいたくて日本から帰ってきたのに」
ユニ「それなら予定通り向こうで大学に通いなさい。帰ってきてどうするの」
ハナ「ここにいれば余った時間でアルバイトもできるし、お母さんの手伝いだってできるでしょ」
ユニ「植物園にあなたの仕事なんてないわ」
テソン「仕事なら僕にアテがあります」
ハナ&母「?」
テソン「…あ、僕、高校の頃からここでバイトしてたでしょう?これでも人脈はあるんですから」
ハナ「確かにね^^ お母さんだって先輩の紹介でここに来たんだもん」
テソン「^^」
ユニ「とにかくダメよ。今は勉強に専念しなさい」
テソンが食卓を立つと、空になった食器を下げようとしたハナを ユニが引き止めた。
ユニ「正直に言ってみなさい。ソウルに行きたがらないのは私じゃなくてテソンのためなんでしょう?」
ハナ「ち、違うよ~」
慌てて否定し、逃げ出した娘に、彼女はふっと微笑んだ。
そこへ、テソンの声が飛んだ。
テソン「あ!先生も韓国大の出身なんですか?」
テソンが手にしていた封筒を、ハナが即座に取り上げた。
ハナ「( ユニに)私が言ったのよ。一緒の大学出身だって」
ユニ「あぁ、そうなの?(テソンに)2年通ったかしら。…アメリカに行かなきゃいけなくなったのよ」
+-+-+-+
ハナはテソンと二人、家を出て歩き始めた。
ハナ「大学の同窓会名簿に家の住所を載せたの。日本で会おうとしてたお母さんの初恋の人、同じ大学の出身だから」
テソン「先生に話したほうがいいんじゃないか?」
ハナ「内緒よ。私が知ってるって、お母さんは気付いてないから」
テソン「^^」
ハナ「何年か前にね、偶然お母さんの日記帳を見たの。それで初恋のことも知ったのよ。その人と…もう一度会えたらいいのに」
テソンは微笑んで彼女の頭を撫でた。
テソン「了解。俺も秘密は守るよ」
ハナ「^^」
テソン「もう家に戻りな」
ハナ「う、ううん!そこまでもうちょっとだけ行くよ」
テソン「あぁ^^」
歩き出した二人を、さわやかな夜風が包む。
テソン「あー、いい気分だ。昔からお前みたいな妹がいればいいなって、そう思ってたんだよな」
ハナ「・・・。」
+-+-+-+
二人の様子を窓辺から微笑ましく見送った母、ユニは、CDの棚に手を伸ばした。
シューベルト「Winterreise」
その歌声に包まれ、洗い物を済ませた彼女は、コーヒーを手に物思いに耽る。
+-+-+-+
じっと待っているイナの隣に車が滑り込んだ。
ヘジョン「待ちました?」
車の窓を開け、ヘジョンが声を掛ける。
イナ「いや、来たところだ」
ヘジョン「乗って。私の車で行きましょ」
イナ「・・・。俺が運転しよう」
+-+-+-+
ヘジョン「ジュンの写真、見ました?」
運転するイナの隣で、ヘジョンが雑誌を広げていた。
彼の作品と、それよりも遥かに大きな彼自身の写真が掲載されていた。
イナ「まぁいいな」
ヘジョン「まだこんな子どもの遊びみたいなものにしがみついて…」
イナ「やりたいことをやらせればいい」
ヘジョン「あなたに似たみたい。自分のやりたいことしかやらないでそっぽ向くところ」
イナ「・・・。」
ヘジョン「私は何も言わないわ。ただでさえ私のこと嫌ってるのに。最近、家を出たいの一点張りなのよ」
イナ「・・・。」
ヘジョン「3人で食事でもしましょうよ。あなたから話して。あなたの言うことのほうが聞くでしょう?」
イナ「・・・。」
イナの表情は固く、じっと前を見据えたままその視線は動かない。
ヘジョン「声をどこかへ置き忘れたんですか?あなたの声を聞くのにも一苦労だわ」
イナ「・・・。」
ヘジョン「車に乗ってから私のこと一度も見てないのよ」
そう言われ、彼は初めてちらりとかつての妻の方を向いてみせた。
ヘジョン「・・・。」
イナ「疲れてるようだな」
ヘジョン「大丈夫ですよ。仕事で疲れてるだけですから。最近は飲んでないの」
イナ「付き合ってる人がいると聞いたが、再婚したらどうだ」
ヘジョン「(笑)一度で十分ですよ。あなたこそ、最近付き合ってる人がいるみたいね」
イナ「そんなわけないのは分かってるだろう?俺は一人でいる方がいい」
ヘジョン「分かってるわ。よ~くね」
イナ「・・・。」
ヘジョン「遅れるわ。急ぎましょ。チャンモ兄が待ってるわよ」
+-+-+-+
壁に明るい「C'est La Vie☆(セラヴィ)」のネオンが輝いていた。
彼らの青春、セラヴィの復活。
集まった多くの人々が、再会を喜び合う。
そこへ入ってきたイナとヘジョンを、カウンターで先に始めていたドンウクとチャンモが迎え入れた。
久しぶりに集合した彼らの姿に、他の人々も顔を輝かせる。
ヘジョンがカウンターの奥にふと目を留めた。
ヘジョン「あっ!私たちの写真じゃない?いつ撮った写真?人の写真勝手に飾るなんて!」
#この間までフレッシュな現実だった70年代。こうやってセピア色の写真になってるのを見ると、ものすごく不思議な感覚に襲われる。
ドンウク「いや~、俺たち変わったなぁ」
#うん、あなたがね
ドンウクが思わず自分のお腹を見る。
ヘジョンがイナに笑いかけた。
ヘジョン「こうやって見たらあなた、よく笑って優しかったのに」
チャンモ「そうだよ。最近笑った顔ちっとも見せやしない。笑ってみろよ」
イナは懐かしい写真と友の言葉に穏やかに微笑んだ。
チャンモ「あ、そうだ。ドンウク、お前んちの息子、開業したらしいな。忙しそうに走り回ってたぞ」
ドンウク「おい、あいつの話はするな。病院に入れようと医大にまでやったのにおかしなカフェまで作りやがって」
チャンモ「カフェの何が気に入らないんだ?!」
ドンウク「お前のせいだぞ」
チャンモ「!」
イナ「立派じゃないか」
ヘジョン「息子ってそういうものでしょ。うちの息子を見なさいよ」
チャンモ「そうだそうだ。頭が痛いのはゴメンだから、俺は結婚もしないで一人で生きてるんじゃないか~!」
彼らを和やかな笑いが包んだ。
+-+-+-+
セラヴィの片隅には、当時のように小さなステージが用意されていた。
そこで初めて歌を披露するのは、もちろんセラヴィ三人衆だ。
30年。
また3人、セラヴィでギターを持つ彼らの姿が、ヘジョンの心の中で懐かしい姿にオーバーラップする。
かつて、そこで歌う彼らも、うっとりと聴き入る自分も、眩しく輝いていた。
#この映像、何だか泣けてしまった。
#若い読者の皆さん、おとなになるとただ懐かしいだけで泣けるようになるのですよ^^
+-+-+-+
耳をつんざくようなビートに踊り狂う若者たち。
フロアを見下ろす席に、ジュンは退屈そうに座っていた。
「街中お前の写真だらけだ」「とうとうお前の時代が来たな」と持ち上げる仲間の言葉にも、彼の表情が動くことはない。
「こんな服、着こなせる人なかなかいないわ」と隣の女性が色目を使う。
肩に置いたその手を、ジュンはそっと払いのけた。
彼の様子に首をかしげる仲間たち。
ジュンはとりあえず彼らとグラスを合わせ、心ここにあらずで視線をそらした。
+-+-+-+
セラヴィのステージではイナとドンウクが歌を披露していた。
そんなイナの姿をカウンターでじっと見つめるヘジョンはひとりでに微笑を浮かべる。
隣へやって来たチャンモは彼女の表情に笑った。
チャンモ「何だよ。まだそんな熱い視線で見てるのに何で離婚したんだ」
我に返ったヘジョンが笑ってごまかす。
ヘジョン「もう。10年やそこらじゃないのよ。今更言わないで」
チャンモ「(笑)全く」
ヘジョン「話って何?」
チャンモ「?」
ヘジョン「私たちに話があるって言ったでしょ?」
チャンモ「あ…いや、それは」
チャンモは言葉が続かず、気持ちよさそうに歌い続けるイナを振り返った。
ヘジョン「彼に関係あること?」
チャンモ「あ…。まずイナに言うべきかどうか」
ヘジョン「私に言いなさい」
チャンモ「あぁ…」
ヘジョン「彼にまず言うべきことなら、私が先に聞いてもいいことでしょ?」
チャンモ「そうだな。お前が一番先に知っておくべきかもしれないな」
ヘジョン「何なの?」
チャンモ「あぁ、それがな…」
話しかけて、やっぱり言葉につまり、彼はふーっと息を吐き出した。
チャンモ「開業式の招待状を出そうと思ってな、卒業生の名簿を検索して偶然見つけたんだ」
ヘジョン「誰を?」
チャンモ「…ユニ」
ヘジョン「!」
ヘジョンの表情から一瞬にして余裕が消え去った。
チャンモ「キム・ユニだ」
ヘジョン「・・・。」
チャンモ「分かるさ。俺たちだってそうだし、イナだってあの子がアメリカで死んだと思ってろ」
ヘジョン「・・・。」
チャンモ「だがな、生きてるとさ。それも韓国で」
彼女は持っていたビール瓶が手から離れるのにも気づかなかった。
「ガシャーン!」するどい音が店内に響き渡り、皆が一斉に振り返る。
チャンモ「ヘジョン!」
イナとドンウクも驚いてギターを弾く手を止めた。
ヘジョン「あ、大丈夫よ!来ないで。大丈夫だから」
ヘジョンは慌てて立ち上がり、手で彼らを制する。
「座れよ」…チャンモは彼女に席をすすめ、小声で続けた。
チャンモ「俺だって最初はすごくビックリした。それにイナに言おうとしたけど…」
ヘジョン「言わないで」
チャンモ「…何だって?」
ヘジョン「言わないでほしいの」
チャンモ「けど…。それでもイナは知るべきだろ。いつか分かることだ」
ヘジョン「ずっと黙ってろっていうわけじゃない。少しだけよ。私の心の整理が出来るまで」
戸惑ってイナを振り返るチャンモの腕を、ヘジョンが力強く掴んだ。
ヘジョン「そうしてくれるわよね?」
すがるような目に、チャンモは何も言えず、ため息をついた。
+-+-+-+
ジュンはまだ一人でそこに座っていた。
そして、考えあぐねた末、首を横に振る。
ジュン「ダメだ。絶対に無理だ。あぁ、絶対ダメだよな」
そこへ他の女がやってきて彼の隣に滑り込んだ。
女性「どんな女が好き?」
ジュンは流れるような慣れた口調で淡々と話す。
音楽、ファション、美術。全て自分と話が合わなきゃいけないし、別れるときはクールに。
それに…。
彼の心のなかに、急にハナの姿が割り込んで来る。
ジュン「・・・。」
急に口をつぐんだ彼を、女性が不思議そうに覗きこんだ。
ジュン「はぁ…。俺、一体どーなってんだ?あーつまんねー」
彼は立ち上がった。
出口へ向かおうと階段を上がり始めると、携帯が鳴る。
ジュン(電話)「何だ?」
助手(電話)「変更するって広告主が言ってきました」
ジュン「何?!そうだろ?やっぱりナイだろ」
助手「違うんですよ。カメラマンを変更するって」
ジュン「何だと?」
助手「室長がそんなに嫌がるんならどうしようもないからって、カメラマンをオ・ジュンソクに替えるって言ってますよ」
ジュン「誰だと?」
助手「えぇ!室長のライバルですよ!」
ジュン「あ゛ー全く!」
助手「オ・ジュンソクさんは写真を見ただけであのお嬢さんのことすごく気に入ったって、さっき僕に電話がありましたよ。彼女の電話番号教えてくれってね」
ジュン「何だと?!教えたのか!」
助手「教えようかと思いましてね。ソノさんが住所と電話番号全部聞いてるらしいし」
ジュン「ダメだーーー!!!おい、オ・ジュンソクのやつ、とんでもない遊び人なんだぞ!」
+-+-+-+
公園で木の世話をしていたハナは、ふと向こうの建物の廊下にテソンの姿を見つけた。
彼に声を掛けようとした彼女は、ふと思いついてニコリと笑う。
カメラを取り出し、彼に照準を合わせると、そこへ彼に近付いた女性の姿が入って来たのに気づき、
ハナは顔を上げた。
誰だろう…。
彼女が首を傾げる前で、テソンはその女性と一緒に姿を消した。
+-+-+-+
植物園。
テソンの横でハナが作業を始めると、園長が声を掛けた。
園長「君たちは付き合ってるのか?」
ハナ「え?」
園長「毎日くっついてるところを見ると、付き合ってるのか?」
ハナ「あはは。ち、違いますよ~。絶対違います。私たち、日本で一緒に勉強してたんです。だから仲がいいだけなんですよ。先輩は私のタイプじゃないし。ふふっ^^;」
テソン「・・・。」
園長は立ち上がり、テソンに指示をして背を向けた。
ハナ「園長!私たち、絶対付き合ってませんからね!」
職員「そうだよ。そんなわけない。テソンさんはもともと恋人が…」
そう口走った職員を隣の職員が慌てて制止した。
ハナ「・・・。」
+-+-+-+
昼食に誘われ、テソンと一緒に外へ出てきたハナは、さらにぎこちなく笑った。
ハナ「園長、笑っちゃうよね」
テソン「(微笑)俺、お前のタイプじゃないのか?」
ハナ「違うよ~!先輩はバッチリ私のタイプだってば」
テソン「・・・。」
立ち止まり、自分を見つめるテソンに、ハナもハッとして立ち止まった。
ハナ「あ、その…。あ、いや、それは…」
テソン「あのさ、ハナ」
ハナ「あ!」
彼女はポケットを探った。
ハナ「携帯落としちゃったみたい。ごめん、ちょっと待ってて」
+-+-+-+
中へ戻り、携帯を拾い上げたハナの後ろで、さっきの職員の話し声が聞こえてきた。
「テソンさんには恋人がいるでしょ。留学する前から会いに来てた」
「別れたんでしょ」
「違うって。この前も来てた。ハナさんがソウルの学校に行った日だ」
「テソンさんとハナさん、付き合ってるんじゃなかったの?」
「可哀想。ハナさん、テソンさんのこと大好きみたいなのに」
噂しあう彼らの話にショックを受けるハナの後ろで、彼女に続いて戻ってきたテソンもまた立ち止まった。
逃げるように外へ出ようとして振り返ったハナは、そこにテソンがいたことに気づく。
ハナ「・・・。」
テソン「・・・。」
ハナ「あ、うっかりしてた。お母さんに言われた用事があったの。先に行くね」
彼女は立ち尽くす彼の隣をすり抜けた。
+-+-+-+
ここで一旦区切ります。
よー喋る人たちや、全く。
うう、そんな事言っていたんですね。
返信削除ジュンのうろたえっぷり、かわいい♡
ホントによくしゃべる人たちですよね、70年代は言葉少なで、じーん、とできていましたけれど
現代はゆじなーさんいなければ大変でした(-。-;
ありがとうございます(=^ェ^=)
さっそくの翻訳ありがとうございました。イナとヘジョンやっぱり離婚したのですね…
返信削除これからイナとユニ、ジュンとハナどうなるんだろうか…後半部分も気になります。
今夜の8話どんな展開になるのでしょうか。ユジナーさんもお身体に気をつけてo(^-^)o
早速 有難うございます。
返信削除70年代と比較すると台詞の数が、はるかに多い気がします にもかかわらず早々感動を味わう事が出来ました。感謝の一言に尽きますm(_ _)m
おはようございます♪
返信削除まさかと思って~覗いたら‥
速さに驚きました!
ありがとうございます(*^_^*)
一気に読みました!
物語が一気に動き出してきて~なるほどなるほど!なるほど!~(*゚ロ゚)
ツボ→ドンウク「いやあ~俺たち変わったなあ」
#うん あなたがたね
です♪
セピア世代のツボ♪
泣ける世代です~セピア色なんだなあ~やっぱり~~(´ー`)
今日が、さらに楽しみです♪
セピア代表?!フレーフレーチャンモ♪
勇者ソ・ジュン♡ファイティンヽ(^0^)ノ
今回も訳してくださりありがとうございます!
返信削除なんとなくこんな感じかな~と思いながら見ていましたが、ところどころ違うところがあって。。
やっぱりyujinaさんの訳がないと正確には見られないですね(笑)
でも本当によくしゃべる人たちですね(笑)
思わずふいてしまいました(笑)
また続きも楽しみにしていますね!
Yujinaさん☆こんにちは(^^)/
返信削除早速UPしていただいてありがとうございます(*^^*)♪
ジュンの駄々っ子みたいな言動(^-^;
ソノの「ん???」の可愛さ(*^^*)
Yujinaさんの翻訳により
ますます身近に感じられて、とても嬉しいです(*^^*)♪
後半もyujinaさんのペースで
よろしくお願いします(⌒‐⌒)♪
本当にいつも有難うございます。
返信削除今日はお休みだというのに、感謝しています。
お体に気をつけてくださいね。
休養もしっかりと取ってくださいね。
よろしくお願いいたします。
初めまして。サランピが、始まって偶然yujinaさんのサイトを見つけてから毎日読ませていただきました。翻訳ももちろんですが、行間の感情など素敵で、たまにyujinaさんの視線の一言が、最高です。最後まで楽しみにしています。お礼をしたいです。
返信削除yujinaさんファイティン(〃⌒ー⌒〃)ゞ
おはようございます。
返信削除いつもありがとうございます。
ほんと言葉が多くなってますます???
yujinaさんあってです。
なんとなく雰囲気で理解するものの細かいところは
ここに来て「そうか。」「そうこないと」で納得。
おとなになるとただ懐かしいだけで泣けるようになるのですよ^^
泣けました。ラストのイナとユニの再開の場面も涙・・
後半戦も楽しみにしています。
Yujinaさん、いつも翻訳してくださってありがとうございます!!!
返信削除ニュアンスで見てる部分もあって、
ここで答えあわせしてる気分です(笑)
本当に会話の量がすごいので大変ですよね(汗)
ここでは言葉の意味だけでなく、
とても素晴らしい文章力で物語が描かれていて、
小説読んでるみたいなんですよね(*´∇`*)
ときどきある緑文字のファンですwwwww
またこの次を楽しみにしています♪
本当に感謝感謝です\(^o^)/
どんどんおもしろくなっていくこのドラマ☆そしてわたしには、yujinaさんの訳あっての楽しみ☆
いつもいつも素早いアップ、ホントにありがとうございます♪
返信削除お陰様で、ドラマ視聴の疑問が一気に解決☆
これからも、長丁場ですが、皆に幸せを届けてください♪
お身体大切に。。。
ユジナさん こんにちは^^
返信削除いつも 素敵な解説と訳を有難うございます。 おぼろげに感じ取って見ていた昨夜の映像がはっきりとした言葉と共に再現しています。
こんなに 早くにUPしてくださり、有難うございます。
現代になって 皆早口でまくしたてるし、良く聞きとれますね~ 毎回ながら尊敬しています。
今夜の第8話の為に夜中に頑張って下さって。。本当に有難うございました。
これからも宜しくお願い申しあげます。 途中の写真もすてきですね。
イナも気になります。。。。
こんにちは。
返信削除楽しみに待ってました^^ 私も昨日はイナとユニの 再会に あの4話の別れのシーンが甦り。。。涙がでました。本当に切ないですね。今夜も楽しみです。ユジナさん、これからも、楽しみに♬
早速 あげてくださってありがとうございます
返信削除初回から 毎回楽しみに読ませていただいてます(#^.^#)
ユジナさんのやわらかい文章にとっても癒されてます❤
これからも よろしくお願いします どんな展開をみせるんだろう~~~~??
いつも見せて頂いております。
返信削除早速のアップありがとうございます ゚+。゚ アリガ㌧ ゚。+゚d(`・Д・´d)
文章だけでもとってもわかりやすくてハングルがまったくわからない私にとってはとっても助かっております。
まだまだお話は続きますがどうーかどうかーよろしくお願いしますね(o^―^o)
お休みなのに 早々 有難うございます(^o^)v
返信削除ジュンのハナを 言葉で言いくるめているところ、 目に見えるようです!
ジュンとハナも 気になるし、インハとユニも気になる!(^。^)y-~
後編も 宜しくです。 ドキドキして 期待一杯です!
今日もありがとうございます!!
返信削除最後の呟き、大爆笑(((o>∪<)b☆=3
今日もありがとうございました♪yujina さんのコメント心に響きました(^o^)/なつかしいだけで泣けてきますよね(ToT)本当に年々涙もろくなって来てます。いろいろな事に感謝したり思いやりを持つことができるようになりました。yujina さんの翻訳は本当にきれいで楽しくて毎回感動しています。毎日お忙しいとは思いますが、よろしくお願いしますm(__)m
返信削除翻訳、ありがとうございます。
返信削除ところで、ジュンが広告主とのやり取りから車で帰る場面ですが…
助手が『写真館でもやりますか?』の後に何と言ってるのでしょ?
『そんなお気楽なカメラマン生活を笑顔ですすめる助手に、ジュンの怒声が飛んだ。』
となっている場面の会話です。
よろしければ、加筆お願いいたします
そこはうまく聞き取れない部分があり、訳せないのでト書きにしてあります。
削除セリフがあるのにト書きになっている部分は、不明点があるためにそうしているケースも多いので、ご理解いただけると助かります。
返信頂き、ありがとうごさいます。
削除了解致しました。
お忙しいとは思いますが、第8話も期待しています。
訳ありがとうございます。
返信削除若くない読者の私は同じく、現代のセラヴィ3人衆やイナの若い頃の映像泣きました。今もまた、泣けました。どうしてなのでしょうか。
続き読ませてもらいます。